物を大事にしなさい

美濃市 正林寺 住職 荒田章観師

物を大事にしなさい。

皆さんもそう教えられたことがあるかと思います。ですが、よく考えてみるとモノを大事にするあまり、押し入れやタンスなどの奥深くにしまい込んでしまってはいないでしょうか?壊してしまってはいけない。汚してしまってはいけない。そう考えることはとても大切ですが、果たしてそれは本当にモノを大事にしているのでしょうか?

私が修行時代、絡子を裁縫する機会がありました。十日ほどかけて縫った絡子は不格好ながらもそれが今の自分のようであり、これを大事にしないといけないと思えるものでした。

裁縫を手伝ってくださった和尚さんが完成するのを見届けますと、朱墨と筆を持ってきました。いったいこの墨と筆で何をするのかと思っていますと、「今からこの墨で絡子に名前を書きなさい」と言うのです。そして、「自分の手で新品の絡子を汚すことで、これはもう全く汚れていない絡子ではなくなる。だからこの絡子を大事に最後まで使いなさい」と

続けられました。

お釈迦さまはお悟りになられた後、自分の残りの生涯はお釈迦様の教えをそのご縁のあった方々すべてに伝えるために使うとお誓いになられ、ご高齢になられても旅を続けながらその教えを広められました。それは自分の命を大事にしながら、しかし全て使いきる生き方だったと思います。

もうすぐ二月十五日、お釈迦様の命日が訪れます。八十年という生涯を教えを伝えるために使い切られたお釈迦様の様に皆様にも自分と、モノを大事に最後まで使い切っていただきたいと思います。