「ひとつのことば」

高山市 正雲寺 住職 近藤元隆 師

ひとつのことばでけんかして

ひとつのことばで仲直り

ひとつのことばでおじぎして

ひとつのことばで泣かされた

ひとつのことばはそれぞれに

ひとつのこころをもっている

これは仏教詩人坂村真民さんがことばについての思いを表現されたものです。

日本ではことばのことを古来から「ことの葉」とか「ことだま」と言いますが、ことばには人を動かすほどの大きな力があると言われます。

ことばは、伝達手段として、コミュニケーションの手段として、私たちにとって欠くことのできないものです。このことばは、私たちを喜ばせたり、奮い立たせたり、信頼関係を深めたりしてくれます。でも逆に私たちを悲しませたり、失望させたり、けんかのもとになったりもします。

私どもの曹洞宗を開かれた道元禅師様は、

「人にものを言うときには、心の中で三回繰り返し、このことばが本当に相手のためになるかどうかを考えてことばを口に出しなさい」と言われています。

ひとつのことばによって救われたり、人生の大きな節目を乗り越えることが出来るのは、かけてもらった心地良いことばや、素晴らしいことばではなく、心がこもっているかどうかではないでしょうか。さらに道元禅師様は、お母さんが無条件に赤子を思うように、慈しみの心を種として発することばを、尊い行いと示されています。

孤独を感じることの多い現代にあって、人と人との絆の確かなるものにするためにも、ことばを大事にしなければなりません。