看脚下

中津川市 禅林寺副住職 鬼頭大輝 師

足元をしっかり看なさい。お寺の玄関に「看脚下」と掲示されている事があります。それは履物をそろえて脱ぎなさいと言う事です。
人は他人のことを、批判したり、注意したりしますが、自分自身のことはあまり注意せず、気が付かないことが多いものです。人の事より、まず、我が身の足元をしっかりと見つめたいものです。
自分の足元をよく見なさいと言う事は実に平凡な言葉ですが、日常生活の第一歩であり、禅の仏法もここが重大であります。
今から九百年も前のことです。ある晩三人の弟子と一人の老僧が灯火を照らして歩いておりました。その日は風が強く、下げていた灯火が消えてしまったのです。すると突然、老僧が弟子達に対し、「この場に臨んで各自一句を述べよ」と命じました。つまり、《夜道を行くには灯火が何よりの頼りになる。その火が消えた。さぁ、お前たちどうする。》と、言うのです。
弟子達は三人三様の答えを出しましたが、中でも一人の弟子が「看脚下」と一言、看は見る、脚下は足元、つまり、足元を見よ、と答えました。
闇夜に灯火を失ったような人生の悲劇に遭遇した時、人の多くは右往左往しこれを見失い、生きる道を遠くに求めようとするものですが、道は近きにあり、自分自身に向かって求めよ、と言うのが看脚下の一語であります。
現代のようなめまぐるしい世の中では、目だけが先に走ってしまったり、高いところばかりを望むあまり、足元がついついおろそかになりがちです。理想や夢も確かに大事ですが、これにとらわれると足が宙に浮いてしまいます。
足をしっかり大地につけて、爪先を正しく向けて着実に進めるならば、目をつむっていても目的地に到達出来ます。いたずらに結果にとらわれず一歩一歩、脇目を振ることなく、たった今を真剣になることです。
皆様も一度自分自身の足元をご覧になって下さい。爪先は何処を向いていますか?