「ありがとうという言葉」

岐阜市 龍雲寺 住職 梅村季弘 師

人は「ありがとう」という言葉を、一生の間に何回言うのでしょうか。

「ありがとう」という言葉は、人がいる場所を和ませる力を持っていると思えます。「ありがとう」という言葉、感謝するという心は、私たちが生きていくうえで、とても大切な事柄です。

先日、車を運転していて、横断歩道にさしかかりました。歩行者の姿を見つけ、車を停止させました。すると、高齢の歩行者の方は、頭を下げられ、声は聞こえませんが、口の動きから、ありがとうと言っているのがわかりました。横断歩道で、車が止まるのは当然の事です。しかし、その歩行者の方は感謝の心を伝えてくれました。其のことによって、私の心の中にとても温かく、さわやかな感情が生まれました。止まってよかった、ゆっくり渡ってくださいね、という、相手を気遣う心にゆとりまで生まれました。感謝の言葉を伝えるというささやかな行動が、もたらしてくれた出来事でした。もし、この時、歩行者の方が、ただ渡るだけで、無言で渡ったら、此のことは、日常の出来事の一つとして、忘れられていきます。しかし、感謝を伝えるという、行動ひとつで、他者の心に温かく、明るい光をともし、平凡な日常の中で、彩りとなり、心の栄養となっていくことになりました。

見知らぬ者に対してのほんの小さな、感謝を伝えるという行動で、心が温かくなるのならば、毎日顔を合わせる家族にも、ぜひ、感謝の心を向けて欲しいと思います。ありがとうの言葉がけは、日々の暮らしをきっと、穏やかで、明るいものにしてくれます。物を渡されたとき、お茶を入れてくれた時、ほんの些細な事で、良いのだと思います。「ありがとう」この穏やかな、温かい気持ちは、人に伝わります。「ありがとう」という言葉は、優しさを生み出してくれるのです。