大垣市 薬王寺 住職 若山 篤優 師
秋の風が心地よく吹き、木々が色づき始める頃、自然は静かに冬への準備を始めます。そんな季節の移ろいの中で、私たちは日々の「ありがたさ」に気づく機会を得るのかもしれません。
仏教では「感謝の心」がとても大切だと説かれています。私たちは一人で生きているように見えて、実は多くの人や自然の恵みに支えられて生きています。朝目覚めることができるもの、食事ができるもの、誰かが働いてくれたおかげ。水や空気、太陽の光も、すべてが命を支える大切なご縁です。
ある日、お寺に来たお子様が「どうして『ありがとう』って言わなきゃいけないの?」と尋ねました。
私はしばし考えて言いました。「『ありがとう』は、心の花なんだよ。その花が咲くと、自分もまわりの人も、あたたかい気持ちになるんだよ。」
感謝の心は、幸せの土台です。何かをしてもらったときだけでなく、何気ない日常の中にも「ありがとう」はたくさんあります。誰かの笑顔、静かな時間自然の美しさ──それらに気づくことができれば、心は豊かになります。
仏教の教えに「知足(ちそく)」という言葉があります。足るを知る心、つまり「今あるものに満足し、ありがたく思う心」です。欲ばかりを追い求めると、心はいつまでも満たされません。
けれど、今あるものに感謝できれば、心穏やかになり、幸せが広がっていきます。
秋の実りに手を合わせるように、日々の小さな恵みにも感謝の心を忘れずに過ごしてまいりましょう。その心が、仏さまの教えに近づく一歩になるのです。
