「まかぬ種は生えぬ」

高山市 正宗寺 住職 原田 太石 師

飛騨の片田舎にある正宗寺では、一反余りの田んぼを世話しています。田植えや稲刈りの際には、近所の農家さんにお世話になりながらも、あぜ草刈りや水管理、田の草取りは住職夫婦で担っています。

さて、4月8日はお釈迦さまの誕生日です。お釈迦様は「蒔かぬ種は生えぬ」と言われました。同じように種を蒔いても、日照時間はじめ、肥料や水やりの頻度、除草の手間のかけ方で収量や味に差が出ます。

実際、私たち家族が口にする食材なので、なるべく低農薬で育てるよう心がけています。反面、草は生えやすくなり、草取りの手間がかかります。

有るとき、水はけの悪い沼田で泥だらけになり、草を取りながら、ふと思いついたことがあります。

私たち人間は皆、それぞれの幸せを求めて暮らしています。

AIすなわち人工知能によるシステム等、何でも自動で対応のできる便利な商品が日々開発されています。スイッチ一つ、号令一つ、ともすると頭に浮かぶ事に即座に反応する生活に幸福感を得られるでしょうか。さまざまな最新技術によって助けられる一方、少しでも楽をしようとする気持ちに負けて、体力や生きがいを失ってはいないかと、時々反省します。

田んぼを維持するには手間とお金がかかります。先祖代々の田畑を荒らさぬように、農地を守って下さる方が近年減りつつあります。イノシシを始め害獣被害にあう年、猛暑や自然災害で収量が少ない年もあります。

いつまで続けられるかはわかりませんが、今後も手間をかけ美味しいと感じられるお米を味わえるよう作物の手入れをしていきたいと思います。自分の手をかければ、収穫の喜びもひとしおだろうと感じるからです。
毎年、作物の出来がちがう米作りを通じて、「まかぬ種は生えぬ」といわれたお釈迦さまの教えを肌で感じています。