「物の命」

可児市 天龍寺 住職 太田  恒次 師

今日は、「物を大切に使い切ること」について、お話をさせていただきます。

お釈迦さまは、「この世のすべては移り変わり、やがては朽ちるもの。だからこそ、今あるものを慈しみなさい」と教えてくださいました。

それは、人だけでなく、私たちの手にする物にも当てはまる教えであります。

昔、友人布の話をしてくれたのを思い出します。

一枚の布の話です。

最初は、きれいタオルとして、大事に使われていました。

汗をぬぐい、涙をぬぐい、大切な場面で寄り添う、そんな存在でした。

やがて年月が経ち、布は少しずつ色あせ、ほつれはじめます。

そこでその布は、小さな端切れに縫い直され、今度は台フキンとして、毎日の食卓を拭く役目を担いました。

さらに月日が流れ、布はすり切れ、つぎはぎだらけになります。

それでも捨てられることはありませんでした。

最後は雑巾となり、床を磨き、仏壇の掃除をし、家のすみずみまできれいにして、ようやく役目を終えたのです。

この布は、最初から最後まで、命を全うしました。

そして、その布に寄り添った人もまた、一つひとつに「ありがとう」と感謝しながら、布を使いました。

この小さな布の歩みこそ、まさに仏さまの教えそのものではないでしょうか。

天地自然の恵みから生まれ、多くの人の手を経て、私たちの手に届いた命。

それを最後まで使い切り、役目を全うさせる。

この心こそが、物を尊び、命を尊ぶ、仏の道につながっています。

今は、物が豊かにありふれている時代です。

しかし、心が豊かであるかどうかは、物の量ではなく、一つひとつにどれだけ「ありがたい」と手を合わせるかにかかっています。

どうか皆さま、身近なものに、そっと目を向けてみてください。

使い古した布、すり切れた道具、何げない一つひとつにも、命があり、物語があります。

それに気づき、最後まで大切に使い切る心を育てること――

それが、私たち自身の心を磨き、仏さまに近づく道となることでしょう。