「放下着~比べることへの執着を捨てる~」

関ヶ原町 瑞龍寺 住職 古川光瑛 師

近年、テレビ等の既存メディアに加えて、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)から情報を得る機会が多くなりました。SNSでは多くの人が自身のプロフィールや写真、起こった出来事など多様な内容を発信しており、新しいニュースや情報を得る媒体の一つである一方で、身近にいない人の状況を知る機会にもなります。

自分より上手くいっている人や、その人の良い部分ばかりに着目して、自分が周りより劣っているように卑下していないでしょうか。他人と比べて自分が劣っているという考え方は、気持ちを萎縮させて悩みにつながり、物事に取り組む気持ちを奪っていきます。

しかし、周りを羨むことで自身の能力や生活が向上するのでしょうか。遠くにいる全く前提の異なる人と自分の現状を単純に比べて、得られるものはありません。また、キラキラ輝いて見える人も、上手くいった出来事を語る時に声を大きくして、陽の当たる側面を切り取っているのかもしれません。

禅の言葉に放下着(ほうげじゃく)と言う言葉があります。「放下」は、放り投げるの放るに下と書いて投げ捨てると言う意味で、「着」は定着するの着と書いて、前にある放下の意味を強調する言葉です。この言葉には執着を捨てよ、という意味があります。

この放下着は様々な情報があふれている今の時代において大変示唆に富んだ言葉です。自分を環境の異なる他人と過剰に比較する姿勢や心こそ、捨てるべきものではないでしょうか。比べることに時間と負荷をかけることをやめ、執着する心を捨てましょう。

過度な比較に対する執着を捨て、自分自身の内面を見つめる時間を増やし、今より少し向上できる、成長できる目の前の物事に力を注ぎ、取り組みましょう。以前の自分よりも改善した部分、できるようになったことにこそ敏感となり、自分を認めながら少しずつ進歩して、日々の生活を充実させていきましょう。