念じなくても花は咲き、念じても花は散る

恵那市 自法寺住職 小栗隆博 師

先日、何気なく目にした、あるお寺の掲示板の言葉に、私はたいへんな衝撃を受けました。

そこには、「念じなくても花は咲き、念じても花は散る」とありました。

仏教詩人である坂村真民さんの「念ずれば花開く」という言葉はあまりにも有名です。それに似せていながら、単に悪趣味な模倣とも言い切れない、より本質を突いた言葉と私は受け止め、掲示板の前でしばらく立ち止まり、あれこれと考えを巡らせたのです。

「念ずれば花開く」という時の「花」とは、目的とする成果や結果のことを意味しているのでしょう。なのでこれは、強く願うことで、必ず思いは叶いますよ、という励ましを意味した言葉だと思います。一方、掲示板のほうの「花」は、直接、植物の花を意味しております。

急な気温の上昇で、桜がいつもより早く咲いてしまったと思ったら、これまた急な冷え込みで、あっという間に散ってしまったり、あるいは天気にしても、晴れて欲しいときに雨になったり、雨の降って欲しいときに晴れが続くなど、人間の思いとは裏腹に、自然のハタラキはいつも無情であります。

しかしわれわれ人間のハカライとは関係なく咲き、散っていくからこそ、花は自然であり、美しいのでしょう。

自然をコントロールしようとするわがままなハカライを捨て、そのありのままに向き合い、受け入れるとき、我々人間にも、強さや美しさが具わってくるのかもしれません。

「念じなくても花は咲き、念じても花は散る」。よくよく味わっていきたいと思います。