雨宿り

岐阜市 自福寺 住職 古川元弘 師

私は住職になる前、郵便局で配達の仕事をしていました。それはまだ就職して1年目の事です。暑い夏の日、私はいつものように配達の仕事に就いていたのですが、突然、夕立に遭いました。ひどい土砂降りにあった私はあわてて近くの民家の駐車場に入ったのですが着ている服はずぶ濡れで、持っていた郵便物も濡れてしまっています。とりあえず雨合羽を着て郵便物が濡れないようにしましたが、雨の勢いはさらに増し、とてもバイクで走れるような天候ではありません。

するとそのお宅の70歳くらいの女性が土砂降りの中こちらへ向かってくるではありませんか。「郵便屋さんそんなずぶ濡れでどうしたんよ。風邪ひくからとりあえず家の中入りゃー」そう私に声を掛けて下さり、玄関の中へと招き入れて下さいました。土間が水で濡れてしまうこともいとわず、さらには タオルまで貸していただき「助かった」私は心からそう思いました。実はこの女性の行動は、無財の七施のなかの房舎施という布施にあたります。雨や風をしのぐ場所を提供することです。雨宿りをさせていただいた私は無事にその日の仕事を終えることが出来ました。

さらに、その後もその女性からはたびたび畑で取れた野菜を分けていただいたり、暑い日には冷たいジュースをいただいたりしました。社会人1年目の私にとっては、うれしかったという記憶が今でもあります。

修証義というお経の中に「布施というは貪らざるなり」と言う一文があります。「見返りを求めず誰かの為に尽くしてあげる」という意味です。いただいた物を皆で分ける、混んでいる電車で席を譲る。ありがとうとお礼を言う。これらはすべて布施にあたります。 どうぞみなさん、まずは自分の出来ることからこの布施をはじめてみましょう。