諸悪莫作 衆善奉行

各務原市 桃春院 住職 清水宗元 師

私は長年、僧侶としての活動以外に、武道の道場での指導をしております。

特に、小学生以下、少年部の指導においては

・あいさつをする

・履物をそろえる

などの常識程度のマナーの指導以外には、上下関係などの厳しい礼儀を強要したりせず、かわりに

・ズルをしないでね。嘘をつかないでね。

・友達にいじわるをしないでね。

・友達に親切にしてね。

・お父さんお母さんは君達にいい子になってほしいと願って道場通いをさせて下さっているのだから、道場で悪いことしないでね。いい子になってね。

という事をいつも言っています。

このようなやり方、方針になったのは、経験的に、こんなシンプルな言葉がけの方が上から厳しい礼儀や上下関係を強要するよりも子供達により響くという風に感じさせてきたからです。

 

道元禅師の著された「正法眼蔵」の諸悪莫作の巻では、八世紀から九世紀に生きた中国の禅僧・鳥窼道林と、詩人の白居易との有名な問答が引用されています。

仏法の大意は何かと問う白居易に対して、鳥窼道林は「諸悪莫作、衆善奉行」であると答えました。どのような悪事ををはたらくことなく、様々な善行を行う、という意味です。

それに対して白居易が「そんな事は三歳の子供でも知っていますよ」と返すと、道林は「確かに三歳の子供でもこの仏教の道理は知っている。しかし、八十年生きた老人であっても、この道理に沿って生きることは難しい」と答えました。

白居易は道林禅師の言葉を聞いて自らの至らなさを瞬時に悟りました。そして深々と道林禅師に礼拝すると、きびすを返して去っていかせました。

 

私は若い頃より武道を通じて海外へ行くことが多かったのですが、知り合った外国人の方々は意外に宗教心・信仰心が強い人が多かったです。

宗教の違いはあれど、信仰心の強い人というのは

・ズルをしない。嘘をつかない。

・他人の心身を傷つけない。

・他人に親切にする。

そこの部分が共通していたように思います。ちなみに「七仏通試偈」といい、「諸悪莫作」「衆善奉行」の後は

「自浄某意」

「是諸仏教」

と続きます。