相手の気持ちを察する

揖斐郡揖斐川町 釣月院 浜田 吉晃 師

私は普段、お寺の傍ら介護の仕事をさせていただいています。

5年程前に地元の愛知県から岐阜に引っ越してきた際、それまでやっていた営業職を辞め福祉の職に就きました。

どんな仕事内容かは理解していたつもりでしたが、実際の現場は想像以上に苦労の連続でした。

仕事を始めてすぐに、新しく入所された男性の方に噛みつかれケガをし、数日後には同じ方にメガネをはぎ取られ、壊されます。

暴力的な言動や行為も認知症の大きな症状のひとつなのです。

「とにかく笑顔だけは忘れずにお世話させていただきましょう」

穏やかに、安楽に生活していただける方法やきっかけを見つけ出す事に職員全員で取り組みました。

「仕事一筋で、特に趣味もなく家でもあまりしゃべらない父親でした。ただ飼っていた犬をとても可愛がっていましたね」というご家族のお話しからセラピードッグをお願いしてみました。

最初は犬に対しても暴言を吐いたりしていましたが次第に犬を見る目が変わり、犬に触れ、語りかけるようになっていったのです。

それと同時に職員に対する介護抵抗も少なくなり、ずいぶん穏やかに生活されるようになりました。

私は後で知ったのですが、仏教用語に『和顔愛語、先意承問(わげんあいご、せんいじょうもん)』

という言葉があります。

「和顔」とは、なごやかな顔、「愛語」とは、やさしい言葉です。

「先意承問」とは相手の気持ちを先に察して、相手の為に何が出来るのかを考え、自ら進んで手を差し伸べていくという意味です。

しかし、いざ実践するとなると容易ではありません。

愛情を感じていない相手にやさしい言葉をかけるのは、なかなか難しいものです。

そこで大切になってくるのが、相手の為に何が出来るのか自分に問いただす事、「先意承問」なのです。

人間のやさしい言葉、なごやかな顔、いたわりの気持ちが人の心を溶かし、安楽な生活を作り出します。