各務原市 良守寺 住職 渡邉良光
出張先での体験をお話しします。
老僧二人、手に思いカバンと背にリュックを背負い都電に乗車した車中の出来事です。乗客満員の中、ふらつかない様まず身の安全を定めていたら、前にいる人に席を変わってあげなさいと乗車口の方から大きな声が聞こえてきました。振り向くと和服姿の良く似合うご婦人二人がおられ、そのご婦人のうち恰幅のいいお方の声でした。私達の目の前に座ってゲーム機で遊んでいた6歳位の男の子と4歳くらいの女の子に言っておられたのです。
小さいお子さんですので「私達は大丈夫ですよ」と、言いましたが、いやいやこれは大事なことです。これから先、この子達が大人になって行くのに大切な躾であり教育ですと、前よりも強い口調でまた、変わってあげなさいの声で二人のお子さんは真向かいに座ってスマホに夢中のお母さんのところへ移動。お子さんにお礼を言って座らせて頂きました。
満員の車中、一瞬シーンとした空気が感じられました。乗客の皆さんはこのやり取りの様子をどう感じておられたのでしょう。私達もご婦人の勇気ある言葉にしばらく圧倒されていました。今まで目に余る場面にしばしば私も遭遇してきました。一言いってあげたい、と思う前に周りの人目のはがかりと心の弱さから声をかけてあげる勇気が出ませんでした。誠に恥ずかしい限りです。大勢の人前で堂々と正しきことの導きができるご婦人はご立派だと感服いたしました。
私達の子供の頃は自分の子もよその子も分け隔てなく「悪い事は悪い」と周りの人達が叱って下さったものです。少子化で現代はそのような場面が見受けられません。真心と勇気をもって何事もきちっと導き伝え行くことは御仏様の御心であり教えそのものなのです。二人のお子さんはきっとこの体験の学びから立派に成長して行かれることでしょう。
子供は国の宝物です。周りの私達が、その場、その時に応じた言葉がけで未来ある子供達を守って行きましょう。