初心忘るべからず

曹洞宗岐阜県宗務所 副所長 等 真一 師

「初心忘るべからず」このことわざを御存じない方はおられないかと思います。「始めた時は新鮮で謙虚な気持ちと、志を忘れてはいけない」という意味で理解して使われていることかと思います。

このことわざは室町時代に能を大成させた「世阿弥」の書からの言葉であります。「初心忘るべからず」には続きがあり、「時々の初心を忘るべからず」「老後の初心忘るべからず」と続きます。

世阿弥の言う「初心」は「最初の志」だけでなく人生の中にいくつもの初心があり、その時々の初心を忘れることなく「芸」に精進するように説いておられるのであります。

「芸」の道に限らず、私達の人生に当てはめてみても、それぞれの年代であったり成長の過程で「初心」を忘れることなく精進することが大切なのではないでしょうか。

新年度を迎え、新たな環境で生活を始められる新入生や新社会人の方は、志も新たに日々過ごされることかと思いますが、少し慣れてきたころに基本や基礎的なことがおろそかになることがありがちになることもあります。そんな時は「初心」にかえって新鮮で謙虚な気持ちを思い出してほしいものです。又様々な経験を経て30代、40代、50代と年齢を重ね年相応の立場や役割につき、人生において最も重要な年代んもこの頃。又、様々な問題や壁にぶつかることの多い頃かとも思います。そのような時に「時々の初心を忘るべからず」この言葉は如何に気持ちの切り替え(リフレッシュ)が出来るかを説いているのではないかと思います。心もからだも上手に切り替える(リフレッシュ)ことによって新しい考えや答えが見つかるのではないでしょうか。超高齢化社会の現代においては老後の過ごし方が重要視されております。世阿弥の時代と違って「老後の初心忘るべからず」この教えの大切さを特に実感させられるような気がします。これまでの人生経験を踏まえたうえで、また新たに事を始める(リスタート)ことによって、老後の人生を如何に楽しむか、これこそが現代の解釈としての「老後の初心忘るべからず」かと思います。

それぞれ違った日々の暮らしの中で、その時々の「初心」に帰り新鮮な気持ちを思い出してみることによって更に充実した人生を送れるのではないでしょうか。