もう一つの修行

不破郡垂井町 薬師寺 住職 松原義範 老師

私たちの曹洞宗は修行というものを大切に考えています。お坊さんは仏の道をめざし出家して仏道修行に励みます。みなさんもご存じのように修行の中心は坐禅です。一本の線香が煙る約40分の間、静かな部屋で姿勢を正して無心に坐ります。

では、お檀家さんの修行は何でしょうか。皆さんの子供さんはこの現実の世界の中で活躍されていると思います。最近は学校を出ただけでは上手くいかず、パソコン操作ができないと就職にも不利になると聞いたことがあります。お檀家さんの方々も新しい知識や技術を習得するためにがんばっています。

さて、曹洞宗の高祖道元禅師様は坐禅やパソコン研修も大切な修行であるがもう一つの別の修行が重要であると述べておられます。『修証義』第四章のはじめに「菩提心を発すというは己れ末だ渡らざる前に一切衆生を渡さんと発願し営むなり」とお示しです。その意味は、自分の事はさておき他の人々を第一に考え行動する、という教えであり、坐禅や研修とは異なる別の修行です。

数年前タイガーマスクと名乗る人々が児童養護施設にランドセルを贈りました。彼らは養護施設にいる子供に思いをよせ、子供たちが来年の4月になると、小学校に入学することを知りランドセルが必要になることに気づき、児童養護施設にランドセルを贈りました。

この行いこそもう一つの修行なのです。この修行によって、お坊さんは坐禅修行を深め、お檀家さまは現実の生活を豊かにすると思っています。