おかげさまで

長福寺 住職 萼 正裕

「仏さま、物をあげても、食べてくれないし、ありがとうとも言ってくれない。いったい何のためにあげるのか。」という質問を受けたことがあります。私たちはふだん「この頃如何ですか。」というと「おかげさまで」と挨拶する。この簡単な、言葉のやりとりで、心が通じ合う。しかし、何気なく使っている「おかげさま」ということの意味を知っているでしょうか?

上の“お”と、下の“さま”は、お釈迦様というのと同じ敬語であって、“かげ”とは陰、つまり御霊のことである。即ち、この「お陰様」という意味は、自分自身努力もし、注意も払っているが、それにもまして、自分をこの世に送り出してくれた祖先の御霊が、見守ってくれるから、家運も降昇し、家族一同健康で過ごしているというのである。その祖先の御霊に対する、自然に生まれた感謝の表現が「お陰様」という言葉であり、またお供えものである。昔の人は、祖先の御霊に対してだけでなしに、生きている人の御霊に対しても、同じように心づかいをした。

旅に出た人が、旅先で、ひもじい思いをしないようにと、あたかもその人が家にいる時と同じように、お膳、つまりは陰膳を据えた。もちろん食べてもくれないし、ありがとうとも云ってくれない。にもかかわらずそうせずにはおられない気持ち、これが供養のまごころなのです。