いかりに対して

下呂市 長福寺 住職 萼 弘道 師

仏教では「貪・瞋・痴」という心の働きを三毒といいます。

むさぼり、いかり、おろかさという私たちの心を害いやすい、煩悩の毒のことです。

中でも「瞋り」は、日々生活する中で最も日常茶飯事といえる良くない心の働きです。

前後の見境なく瞋りを爆発させれば、後で悔やむことになるでしょう。

しかし、そのことが分かっていたとしても、つい腹を立ててしまうものです。

ですが、腹立ちに耐えて瞋りをやりすごすことができると、そのあとで「ああ、怒らなくて良かった」と胸を撫でることになります。

以前、ある男性の方と意見の食い違いから言い合いになってしまったことがあります。

話していくうちに段々とヒートアップして、その方は見るからにご立腹されているようでした。私もそれに応ずるように腹が立ってしまいましたが、これでは話し合いが終わったとしても、良い結果にはならないだろうと思い、瞋りの感情を抑え、まずその方の話を全て聞くことにしました。

すると、憤怒の表情だったその男性も徐々に落ちつきを取り戻し、最終的には穏やかに話し合いを終えることができました。

その時に、自分も瞋りに身を任せなくて「ああ良かった」と思いました。

自分が瞋れば、相手も瞋る。周りも良い思いがしません。

瞋りが生まれた時は、腹を立てている自分と、それを抑えようとする自分を意識することが大切です。その時は、もう一人の穏やかな自分を思い浮かべてください。