「大変な時は顔に気を付けよう」

関市 広福寺 住職 紀藤昌元 師

この原稿を書いている4月、新型コロナウィルス感染拡大防止のために全国に緊急事態宣言が出されました。

誰もが大きな不安を抱え、その不安が日用品の買い占めや、感染者・医療従事者への差別など様々な形になって現れています。不安の増大が他者に対する余裕を奪い、穏やかな心を失わせてしまっているのだと感じます。

そのように不安や怒りに飲み込まれそうな時、心に余裕が持てない時に、私はある言葉を思い出すように心がけています。それは道元禅師様の、「ただまさに、やわらかなる容顔をもて、一切にむかうべし」という言葉です。どんな時も、やわらかい穏やかな顔つきで、すべての人や物事に向き合いなさい。という意味です。

顔は心を映す鏡です。余裕がない時は誰もが硬くて怖い顔になっています。余裕がない時というのは自分のことしか考えられなくなっている時です。「やわらかなる容顔で一切に向かう」まだまだ私にはできませんが、それを思い出すことで、自分のことしか考えられなくなっている今の私に気付くことができます。そして、そこに気付くだけでも救われることがたくさんあるのです。

心は直接目には見えませんが、顔の表情なら目に見ることができます。知らず知らずのうちに硬くて怖い顔になっていたら、そんな時は自分のことしか考えられなくなっているのかもしれません。大変な時だからこそ、他の人への思いやりを忘れず「やわらかなる容顔」で乗り切っていきたいものです。