「今を一心に」

関市 正武寺 副住職 岩田潤法 師

お釈迦様のお言葉のなかに「過去を想わざれ、未来を願わざれ、過去は既に過ぎ去りしものなり、未来は未だ来たらざるものなり。ただ今を一心に為せ。誰か明日の死を知らん」とあります。このお言葉は、ただ単に「過去を想ってはいけない、未来を願ってはいけない」という意味ではありません。

過去の中の思い出には、人それぞれ大事な、そして大切なものがあります。その大切な思い出を想ってはいけないというのではなく、過去にとらわれてはいけないとおっしゃっているのです。

私たちは今と比べて、「昔は良かったな」「あの時ああすれば良かった」などと思い出にひたったり、あるいは悔やんだりしますけど、思い出ばかりで過去にとらわれ現実を見ない、何もしないというのがいけないのです。

新型コロナウイルスの影響で様々な不幸がもたらされております。しかし、こうした苦境を乗り越えた経験は、コロナ禍の今こそ活かされるはずです。

また、未来についても、夢や希望を持つことは素晴らしいことですが、「今の生活が嫌だ」「ああしたいな、こうしたいな」と空想するばかりで何もしない。こうしたことがいけないのです。今を一生懸命生きること、努力することが夢や希望をかなえることに繋がるのだと思います。今晩目を閉じて明日目を開けることができるという保証はございません。だからこそ一日一日を悔いの残らないように大切に生きる。今という一瞬は二度と戻ってきません。

生かされているこの人生が、長い生命の営みの過去から未来へとつながっていく一コマにすぎなくとも、自分はその中で一つ役割を果たせたと思えた時、人はそこで自分自身の役割がなんであったか理解でき、自分の人生に満足できるのだと思います。

今あるこの命を生きるということの大切さを心に、どうぞ一日一日を大切に、そして一心に人生を歩んでいただきたいと思います。