「人の心元より善悪なし」

恵那市 瑞現寺 副住職 坂 英世 師

道元禅師さまは、私たちにもとから善い心や悪い心があるのではなく、善い縁に出会えば善くなり、悪い縁に出会えば悪くなっていくのだとお示しくださっております。

何年か前から、子どもの人生は親の地位や経済状況によっておおよそ決まっている、という意見を耳にするようになりました。私たちの人生が生まれによって決まっているという考え方は、古代のインドでもそうであったように、ある意味根強い考え方です。しかしお釈迦さまは、私たちの人生は生まれではなく、行いによって決まるのだとお説きになられました。道元禅師さまのお示しは、このお釈迦さまのみ教えに連なるものです。

生まれた環境が私たちの人生を左右しているように見えるのは、一面では正しいことかもしれません。問題は、それを全く動かしがたい運命のように考えてしまうことです。環境もまた、私たちの行いから成り立っていると考えてみるのはどうでしょうか。これまで生きてきた中で、身近な人や尊敬する人のふるまい、ことばから、全く影響を受けていないという方はおられないと思います。普段意識することはないとしても、私たちの行いは善くも悪くも影響力をもっています。

生まれというとほかの人から自分への影響に偏りがちですが、行いと考えてみると、自分の行いはどうだろうかとも思い至ります。私がしていることは周りにどういう影響を与えているのだろうか、はたして善い縁になり得ているのだろうか。周りに善い影響を与えようとまで考えると行き過ぎですが、自分のふるまい、ことばを顧みることは、自分を助けることでもあります。

私自身にとりましても、自覚なくふるまったりことばを話したりすることは恐ろしく、また恥ずかしいことです。「人の心元より善悪なし」このお示しは、自身のふるまい、ことばを顧みるためにも、大切にしているおことばです。