「どこかで誰かが見ていてくれる」

高山市 正宗寺 御住職 原田太石 師

映画やテレビの時代劇で、斬られ役の名優といわれた福本清三さんが、昨年お亡くなりになりました。数年前、娘が、小学校の国語教科書に紹介された福本さんのことを話してくれたことを思い出しました。福本さんは,五十年以上もずっと日本刀で刺されたり,斬られたりしてきました。観ている人が、「あれ? 大丈夫?」となるような斬られ方ができる方でした。斬られ役を見事に演じきる姿は世界的に認められ、アメリカのハリウッド映画にも出演されました。

後日、娘の学級通信には、クラスの女子児童の日記の一文が紹介されていました。

「私の係は、台ふきです。あまり目立つ仕事ではありません。 でも、私は台ふきがとても好きなので、いつもさぼらずやります。そしたら、『係の仕事、がんばっているね。』と掲示板に書かれていました。その時、私は、今日の福本さんの話と同じように、『どこかで、誰かが、見ていてくれるんだな』と感じました。」

さて、今年のNHK大河ドラマの舞台となっている鎌倉時代、大本山永平寺をお開きになられた道元禅師は、弟子たちに次のようにお示しになりました。

「たいていの人は善いことをすると、他人に知られようと思い、悪いことをすると知られまいと思うものです。しかし、間違いは悔い改め、真実の徳は内に隠すのです。どのような役割であっても、自分の利益を意識せず、生きとし生けるものに利益を与えるよう努力することが、仏の道に生きる者のあるべき姿です。」

コロナ禍中の大変な時代だからこそ、福本さんや道元禅師が言われるように、自分の役割をしっかりと果たすよう努めたいと、改めて自分の心に言い聞かせました。