飛騨市 洞泉寺 住職 栃本 孝規 師
「和敬清寂」という言葉が禅や茶道の世界にはあります。文字は平和の和、敬うの敬、清らかの清、寂しいの寂です。この言葉の元は、お茶の祖とされている村田珠光(むらたじゅこう)という人物が、一休宗純に禅の心をもってお茶を点てるようにすすめられ、茶道の心をしるした言葉が元とされており、のちに千利休が茶道の根本精神として示して広く伝わったとされています。
私もお茶をしておりますが、禅と同じくらい和を感じます。
和というのは、日本人が最も大切にしてきたことのひとつだと思います。
聖徳太子の十七条憲法に「和を以て貴しと為す」という言葉があります。日本が国家としての体裁をととのえ始めた七世紀始めに、すでに「和」が私たちの心を支える大事な背骨とされていたのです。
人と人との関係だけではなく、料理の味付けから芸術における調和、サッカーや野球などのスポーツでも「チームの和」なんてことを大事にしますよね。
「和敬清寂」の四文字は、禅や茶道の世界だけにとどまらず、日本人の求める心を簡潔にあらわしていると思います。
たとえば、「一期一会」の縁で出会った者同士が、和やかに打ち解けて、互いを敬い尊重し合う。清らかな心で生きて、「寂」、すなわち悩みも迷いもない純粋で透明な境地にいたるということです。
「和」の心で互いを認め合えば「敬」が生まれ、「清」を得て「寂」にいたるでしょう。四つの字を心に思い浮かべてみてください。そうするだけで心がスーッと落ち着いてくるような気がしませんか。
どれだけ年を取り、どんなに時代が変わっても、この話を聞いていただいた皆様には忘れてほしくない言葉です。