関市 広福寺 住職 紀藤昌元
「一億の人に一億の母あれど、わが母に勝る母なし」
先日あるご葬儀で喪主を務め、93歳の母を送った息子さんの挨拶の中にあった言葉です。80歳で腰を痛めてから10年近くを施設で過ごし、認知症を発症してからは次第に息子さんのこともわからなくなっていたそうです。それでも、最期まで「すまんね、悪いね」と周囲への感謝を忘れなかった、そんな母親であった。教育熱心で学校の勉強はもとより絵の描き方まで熱心に教えてくれた、そんな母親であった。若い時には辛い時期や苦労もあったし、晩年は家族ともどもいろいろと大変な思いもした。けれども、母は幸せな人生を送ったのだと思う。そんなお話でした。
「わが母に勝る母なし」とは、他の誰かの母親に比べて特別に優れた母親だった、と言っているわけではないのです。自分にとっていい母親だったかどうか、というモノサシで測るのとも違います。あなたは世界であなたにしかできないあなたの人生を生ききった、と母親のかけがえのない人生をまるごと受け止めているからこその言葉なのだろうと思います。
良いも悪いもなく、その人の一生をまるごと受け止めること。遺された人たちが死別の苦しみを乗り越えるための、ひとつの大切なあり方であろうと思います。